【書評】上出義樹博士(北海道新聞元編集委員)「報道の自己規制 メディアを蝕む不都合な真実」

  • 2016-9-5
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[写真]上出義樹博士の「報道の自己規制」、画像はAmazon掲載のものを拝借。

 元北海道新聞編集委員の、上出義樹・博士=2016年上智大学=から、著書のご献本をいただきました。

 「報道の自己規制 メディアを蝕む不都合な真実」(2000円+税、リンク先はAmazon)で、発行元はリベルタ出版

 ISBNコードは、978-4-903724-48-5

 上出さんは1945年北海道生まれ。北海道新聞社入社後、東京支社政経部で昭和から平成への移ろいを取材。シンガポール特派員では、4紙代表(北海道、東京・中日、西日本)の赴任記者として、共同通信とは違う角度から、日系企業などに特化した記事を執筆。北海道新聞社の外報部次長、編集委員を務めた後、退社。東京の上智大学大学院で学びながら、霞が関・永田町などの記者会見に参加するフリーランス記者としても活躍してこられました。

 私はおもに、2012年の岡田克也副総理の週2回の定例記者会見で、ご一緒し、政権末期にはたいてい並んで座っていました。

 ファクト面で秀逸なのは、第4章「原発報道と自己規制」。

 第4章では、上出さん自身が出席していた、2011年3月12日の経済産業省原子力安全・保安院の記者会見で、中村幸一郎審議官が「炉心溶融ですね。燃料が溶け出していると見ていい」とかなりはっきりした口調で言ったのに、その2日後に「まだ溶融という段階でない」と発言したとの生々しいファクト。これについて、その2日間に、官邸にいる同省出身の貞森恵佑首相秘書官が、「重要事項を首相がテレビで知るのはおかしい。事前に知らせろ」と叱り、重要事項はまず官邸が先に発表するというルールが確立したとのファクトが示されています。

 ファクト以上に本書の画期的な点は、筆者が大学院で指導を受けながら博士号を取得した研究、論文が基だけに、メディア論としては極めて体系的な章立てがされていることと、同時期にフリー記者として記者会見に参加していたことを活用した独自の現場記者調査が止揚していることです。私はメディア論は詳しくありませんが、おそらく同種の著作は初めてでしょう。

 全10章の章立ては次の通り。

 第1章 なぜ報道の自己規制が問題なのか

 第2章 自己規制の理論的枠組と仮設

 第3章 自己規制の系譜

 第4章 原発報道と自己規制

 第5章 安倍政権と報道の自己規制

 第6章 足利事件に見る報道責任と自己規制

 第7章 自己規制と記者たちの認識

 第8章 自己規制の朝日新聞モデル

 第9章 マスメディア批判のさまざまな視座

 第10章 報道の自己規制の克服にむけて

 となっています。 

 序論では、「記者クラブ」「日本新聞協会」「メディア系列」の「3つのK」を問題視したフリーマン氏など先行した研究の論文をていねいに紹介。日本、カリフォルニア市、英議会などを対象にした先行研究をひもときながら、若干の筆者自身の日本の現状の紹介があります。

 そして、上出博士が現役フリー記者として知遇を得た現役メディア記者に対する「自己規制の圧力はあるか」との独自調査。その問いに、読売新聞記者に限れば半数が「ある」と答えたのに対して、朝日、NHKの記者は「ゼロ」だったことを紹介。

 上出現地調査を、同時期の日本大学新聞学研究所の大規模調査と比較。日大大規模調査では「ジャーナリズムに影響を与える要因」の問いに「メディア側の自己規制」を複数回答の1つに挙げた人が全体の1割強にとどまっており、上出現地調査を裏付ける部分がありました。しかし、筆者は日大大規模調査の「ジャーナリズムが果たすべき役割」の問いに「政治指導者を監視する」が断然トップ「人々の政治決定に必要な情報の提供」が2位につけていることに注目。「建前と実態のかい離があるのではないか」と指摘し、その後の論考へとつなげていきます。

 私・宮崎信行個人としては、日経新聞勤務中に、記者クラブで耳なじんだ「黒板協定」の形成経緯をはじめて知りました。NHK本部には記者クラブが2つあり、そのいずれも、民放記者は入れないというのも、ここ数年にわたる、第2次第3次安倍内閣NHK籾井勝人会長と国会野党とのバトルがくすぶり続けたまま決着しないことへの新しい視座を得ました。

 情報源と記者との関係という、俯瞰的、客観的、体系的に説明しづらい事象を、博士論文として体系的に明らかにしたことが、本書の特筆すべき点です。「誰にぜひ読んでほしい」ということではなく、数十年単位というかなり長期的な期間にわたって参照され続ける著作になるだろうと考えます。

このエントリー記事の本文は以上です。

(C)2016年、宮崎信行。

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